「これは川崎さん分です」
「川崎? 何であいつの分まで?」
「私の分を入れているので、ついでです」
「普通、あいつが入れるだろ、部下なんだし」
「彼は忙しくて、私が飲みたくていれているので、本当についでなんです」

私は、なんでこんなに一生懸命に言い訳をしているのだろう。

「彼?」

彼とは川崎さんの事だけど、何かおかしかっただろうか? 部長の声がいつもより低い。

「あの……」
「俺はついでもないし、いつも自分で入れてる。赴任した初日に白石が言ったんだぞ? 自分で入れるようになったと」
「そうですけど?」

責められてる? それとも怒られてる?
ただ、眠そうな川崎さんに、自分が飲むついでに入れているだけなんだけど、声が怒っているようで怖い。

「あの、すみません……」
「俺が出て10分後にリフレッシュコーナーに来て」
「……はい」

ふいっと給湯室を出て行ってしまい、私は唖然とする。

「どうしたの? いったい」

コーヒーを入れて自席に戻り、川崎さんのデスクにカップを置いた。

「川崎さん、コーヒーをどうぞ」
「すみません!」
「私が飲むついでですから。気にせずどうぞ」
「ありがとうございます」

しきりに恐縮する彼に、資料室に行くと伝え、リフレッシュコーナーに向かった。

「お待たせしました」

外を眺めながら立っている姿が、また憎たらしいほど様になっている。とてもりりしくてすてきな後ろ姿に、胸がキュンとしてしまった。

「凄くいい眺めだよ。来てごらん」
「はい」

ずっと私のオアシスだった場所なんだから、眺めがいいのは知ってる。でも、今はいつもみる景色と違って見えた。
ずっと黙ったままで何分たったのだろうか。今は仕事中でこれはサボっていると言える状態だけど、それでもいいと思ってしまう。