※彼の姉ではありません


 私は努めて淡々とした口調で住所と名前を告げた。

 幌延さんはテーブルに置かれたノートパソコンを開き、なにやら打ちこんでいる。たぶん本当にあるかどうか調べてるんだろう。

 ガラス張りの、丁寧な細工が施されたローテーブルと、真っ黒なノートパソコンがアンバランスでなんだかおかしかった。


「こちらで合ってますか?」


 幌延さんはそう言いながら、私にパソコンの画面を見せてくれた。
 そこには〝前田診療所〟とお父さんが作ったホームページが表示されている。地元の海や山の写真を素材にして作った、お父さんの趣味が強く出ているページだ。


「はい、この診療所です」

「では……電話をかけさせていただきますね」


 有無を言わせない口調に、私は首を縦に振る。

 それを確認した幌延さんは、その場で電話をかけた。要望は全て正直に伝えたのに、手のひらには汗がにじむ。心臓もドクドクと音を立てる。


「……もしもし、私、幌延商事の幌延純仁と申します」


 聞きとり辛いが、漏れる声は確かに祖母のものだ。元気そうでよかった。いやこういう状況でそう思うのは……ちょっとどうなんだろう。


「ええ、突然申し訳ありません……はい、我々は今後、地域医療の再生に力を入れていきたいと考えておりまして……」


 祖母の言葉まではわからない。だが疑ってるようで、幌延さんは腰を低くして説得にあたっていた。