※彼の姉ではありません


「特にはありません、壊したり汚したりしなければ大丈夫です」


 貴重品や仕事に関わる書類だとかは置いてない。そういうことでいいんだろう。

 それならそれで、万が一があっても疑われずにすむのはありがたかった。


「前田さんの要望も聞かせてください」


 タダでとは言いません、と初めて会ったときに言われたのは記憶に新しい。ここは下手に隠しごとはしないで、洗いざらい話してしまおうと思った。
 そのほうが後からなにかあっても堂々としていられるだろうし。


「祖母の診療所を守りたいんです」


 診療所が経営難に陥っていること、今までのやり方を改めて訪問診療だけにしようと考えていること、そのためにはまとまったお金が必要になること。

 全てを話した。


「本当かどうか、調べてくださってもかまいません」


 そう締めくくって、幌延さんの顔色をうかがった。

 ……難しい表情をしているように見える。やはり嘘くさいと思われてるんだろうか。

 それはそうか。姉の代わりを頼んだ相手が提示してきたのは、偶然にも自分と同じ“祖母”の援助。情につけ込んで、とんでもない額を要求してくるんじゃないか──そう考えてるのかもしれない。


「その診療所は、どちらにあるんでしょう?」


 ああ、やっぱり疑われてた。