※彼の姉ではありません


 背後でドアが閉まる音がする。

 それを合図に、私は奥のソファーから立ちあがった幌延さんに一礼して近づいた。


「これからよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、この仕事を受けてくださり感謝しています」


 幌延さんに手を差しだされ、私はそれをゆるく握った。手汗は乾いてるはず……うん、大丈夫、大丈夫……。


「その、契約書についてですが……どういった形になるんでしょうか?」


 今までいくらでも見てきたけど、替え玉になる契約書なんて聞いたこともない。当たり前だけど。

 不安がる私に、幌延さんは苦笑してソファーに座るよう手で示してくれた。


「形態としては、普通の契約書にしたいと思っています」

「そうしますと、シンプルに……タイトルと、前文に本文、後文、日付や署名欄でしょうか?」


 私は素直に従って、弾力のあるソファーに座った。フカフカな座り心地を堪能する余裕もなく、幌延さんと契約書について話を進める。

 内容に目をつぶれば普通の商談のようだ。内容に目をつぶれば、だけど。


「では一度、条件を書きだしてみましょう」

「そうですね、まず期間ですが……」