コンコン。
「入ってえーか?」
お母さんの声だ。もう帰ってきてたんだ、と思い時計を見ると5時52分になっていた。思ったより時間が進んでいる。学校を出るのがいつもより遅かったからかな。時間の間隔がくるっていた。
「いいよ。」
私がそう言うと、お母さんがドアを開けて入って来た。
「さっき買い物から帰ってきたねんけど、今日の夕飯何か食べたいもんある?豚肉があるからそれ使いたいとは思ってるんやけど、最近豚肉料理生姜焼きばっかりやってたから思いつかへんくて。もう3連続くらいで生姜焼きやったからさすがにみんな嫌かなって思ーて。せーくんにも聞いたんだけど、どーでもいーって言われてもうて。何かいいのない?」
お母さんは一息に話し出した。相変わらず弾丸トークだなぁと思いながら、私は少し考え返事をする。
「おかえり。この間じゃがいも買ったたのまだ使ってなかったよね?それ使って肉じゃがにするのはどうかな。」
我が家はにんじんと玉ねぎは常にあるようにしてるし、肉じゃがならそれだけあればできると思い私はそう答えた。お母さんを見ると、パァっと顔をほころばせていた。
「肉じゃが!いいねいいね。そうしよう。いやー、ゆーちゃんに聞いて正解やったわ。ありがとね。そうだ、今日は学校どうやった?楽しかったか?せーくんがねーちゃん帰り遅かったってゆーてたけど、なんかあったん?まあいつもが早すぎるだけかもしれへんか。せやな。もしかして友達とどっか寄って帰って来たん?それならよかったなー。」
「肉じゃが楽しみにしてるね。学校、いつも通りだったよ。帰り遅かったのは掃除してたからなの。いつも早めなのは部活入ってないからかな。」
お母さんはニコニコと言い、私は言ってて少し悲しくなった。だって、お母さんは当たり前のように私に友達がいると思っている。学校が楽しいと思っている。私は嘘をつくことも本音を言うこともできなかったので、当たり障りのない答えをした。
お母さんは「そかそか。ほなそろそろご飯作りに下行くなー。」と部屋を出て行った。階段を降り終えたのを廊下から確認し、また部屋に戻り息を吐いた。
「はぁ、疲れた。」
無意識のうちにそう、声が漏れていた。この言葉がお母さんに対してだと分かり、自己嫌悪する。
お母さんは悪気なく、むしろ私のためを思って明るく話してくれているのに私はその気持ちを素直に受け止められていない。
実際のところは分からないが、お母さんのことはなんとなく分かっているから。だからお母さんに悪意なんかない。私を追い詰めようなんて思っていない。分かっているはずなのに、追い詰められているように感じてしまった。
いつも明るいお母さんを見ているのがつらい。私の暗さが際立つ気がするから。これは私が暗いのが悪いのに、大事な家族のはずなのに、大好きなはずなのに、感謝しているはずなのに、お母さんのことが苦手だと思ってしまう。大阪人特有の話し方に、萎縮してしまう。きつく感じてしまう。お母さんの良さであるはずの近しい距離感に慄いてしまう。
そんな自分が、嫌だった。
