スイセンの花束を君に


 だんだん教室が騒がしくなってきた。音楽をかけているのにみんなの声が聞こえてしまう。早く先生来ないかな、と思ってドアを見つめていると、先生が入ってきた。
「みんなおはよう。HR始まるから席着いてくださいねー。」
 先生がそう声を掛けると、席を立ち話していた子たちはしぶしぶと言ったようにダラダラと席に着く。私はずっと机の模様を見ていた顔を上げ、先生を見つめる。すると目が合ってしまい、急いで逸らす。
「はい、じゃあまず首席確認します。」と先生は言い、生徒の名前を読み上げていく。「久保(くぼ)さん。」と前の席の子が呼ばれ、私は憂苦を感じる。心臓の動きが忙しない。
「広野(こうの)さん。」
 私は名前を呼ばれ、蚊の鳴くような小さな声で返事をし、小さく手を挙げ、すぐ下ろす。あの子いつも声小さいとか、おどおどしてるとか思われているかもしれないと思うと、更に周りの目が気になり声や行動が小さくなってしまう。すぐに次の人が呼ばれ、感じていた視線がまた違う人に向かう。
 注目が消えた気がして、ほっと息をつく。こんなに些細なことなのにいちいち緊張する自分が情け無い。
「はい。」
 堂々とした、涼やかで凛とした声が聞こえ、はっとする。佐々木(ささき)くんだ。佐々木くんはいつも堂々としていて、私は密かに憧れている。憧れてはいても、私が佐々木くんのようにはなれないことは分かっている。それでもやっぱりすごいと思うんだ。芯が強い感じがして、自分のやりたいことをやっている感じがして。
 そんなことを考えていると、いつの間にかHRは終わっていた。先生の話聞いてなかったな。大事な事言ってたらどうしよう。こういう時、「先生さっき何の話してた?」と気軽に聞ける人がいないのが悲しくなる。悲しんでいる場合じゃない、なんて言ってたのか知るのが先だとは思ったが、きっと重要なことならまた言ってくれるよね、と言い聞かせ、自分を安心させた。