スイセンの花束を君に


「ただいまー。」
 ガチャっと玄関のドアが開く音と、お父さんの二階にまで届く大きな声が聞こえた。仕事から帰って来たんだ。今日は遅めだったな。とは言ってもサラリーマンの中では仕事が終わるのが早い方だと思う。朝6時には家を出て、夜7時には帰ってくる。お父さんの会社は始める時間も終わる時間も早い。だから、お父さんの帰宅に合わせて夜ごはんを食べる。
 みんな揃ったので私も下へ降りて手を洗い、席についた。もうテーブルには料理が並んでいる。お母さんてば手際いいな。6時少し前から準備を始めたはずなのにもう完璧に終わっている。もう少し早く降りて手伝ったらよかった、と思った。
 お父さんはスーツを脱いで部屋着になり、ダイニングにやって来た。お母さんも席に座っている。
「晴夜、ご飯みたいやよ。っていうかスマホに目近づけすぎとちゃう?」
 お父さんはせーくんに言い、せーくんは何も言わずにこっちに来た。少し緊迫した中、お母さんはそれを全く気にせず、「ほないただきまーす!」と言った。それに倣って私もいただきますをする。お父さんとせーくんも続く。
 私はまず肉じゃがを口に入れた。おいしい。玉ねぎは少しシャキッとしていて、じゃがいもはほろほろしている。次にお味噌汁を飲むと、優しい、ほっとする味が口に広がった。具材のもやしと小松菜を食べる。シャキシャキ目で食感が楽しい。
「今日のにんじんは当たりやね!にんじん臭さがなくてしかも柔らかくておいしいよ。みんなも褒めてくれたまえー。」
 私が食べることに夢中になっていると、お母さんの声が聞こえてきた。チラッとお母さんを見上げると、おいしくてたまらないと言うような幸せそうな顔をしていた。お母さんの隣に目を移すと、お父さんはうんうん頷いていた。
「いやー、肉じゃが久しぶりに食べたけどやっぱりうまいなー。小夜(さよ)の料理は世界一や!あっぱれ!」
 お父さんは朗らかに笑った。お母さんは「まったく優希(ゆうき)くんたら、子どもの前で恥ずかしいやないのー。」と言いながらも嬉しそうだ。少し頬が赤くなっていて子どもの目から見てもかわいい。
「うぜー。」
 そんな言葉にハッとして隣を見ると、せーくんが不機嫌そうな、ムスッとした顔になっていた。年頃の男の子からしたら両親のいちゃいちゃする姿を見るのは苦でしかないのだろう。
 私はせーくんの機嫌が直ってほしいと思い、「さっきお鍋見たらまだ肉じゃが残ってたよ。せーくん肉じゃが好きだし、おかわりしたら?」と言った。するとせーくんはまた、「うぜー。」と言った。心なしかさっきよりは顔が緩んでいる気がする。お母さんとお父さんは困った顔をしていたが、私を見るとごめんね、ありがとう、と言うように少し申し訳なさそうな顔をしてから笑いかけてくれた。