「ちなみにどこらから聞いてた?」
「静波ちゃんが復習がどうって言ってたあたり」
「ツンデレの鑑みたいな発言だったぞ」

 ちゃんと聞いてないなんてもったいないなと思ったのが顔に出たのか、君嶋は目頭を軽く揉んだ。うちの母親みたいなことしてんな。

「素直だか告白だかって真岡くんの創作でしょ」
「まぁな。なかなかの名台詞だったろ?」

 正直、プロのシナリオライターも真っ青だと思い、胸を張ってみせたが見事にスルーされた。そんなにひどい? でもスルーすることなくね?

「真岡くんも数学、ヤバいよね?」
「ヤバいけど、ヤバくはねぇんだ」

 何を言っているのかわからないと顔に書いてある君嶋に、おれはポケットから一枚の写真を取りだして突きつけた。デデン!

「これがある!」

 担当のハゲあがった数学教師と、線の細いケバいオネーチャンがいちゃついてる写真だ。断っておくが、この教師の奥さんは丸々としたはち切れそうなリンゴそっくりの体型をしている。
 君嶋は目を丸くすると、苦手な食べ物を食べたような顔になった。

「真岡くん、ロクな大人になれないよ……?」
「そりゃどうも」

 チャイムの音が学校全体に響きわたる。
 おれと君嶋はその音を聞きおわる前に、それぞれの教室に戻った。
 木城も鐘石も、いつの間にか席についている。
 担任のみつのん──三津野先生がやってきて、帰りのホームルームが始まった。期末テストが近いことや面談がそろそろ始まることなどを半分くらい聞き流しながら、おれは欠伸をかみ殺した。