「あー、大丈夫だ。GPSは入ってないし、スマホにもつけられてねぇ」
「油断すんな。スマホの電源は切っとけ」
「待って! その前に学校に連絡させて!」
「だからあとにしろって!」
「雇い主はあたしよ! 命令されるいわれはないわ!」

 ぎゃあぎゃあといい歳した大人たちが騒ぐ。
 心から呆れていると、モフモフしたあったかいなにかが足先にまとわりついてきた。
 リリーだ。
 大人たちの乱暴な大声に怖くなっちゃったのかもしれない。かわいそうに。
 なでてあげたいけど、腕は後ろでぎっちり縛られてるし……。

「リリー、私がついてるからね」

 麻袋で通じるかはわからないけど、身体を折りまげてリリーに声をかけた。
 モフモフが、顔の近くにまでやってくる気配がする。
 クゥン。
 リリーが鼻を鳴らして、甘えるように身体をすり寄せる。
 私は1人じゃない。
 そう思ったら、心の底から勇気がわいてきた。
 こんな人たちの思い通りになんかさせない。私は高校をちゃんと卒業して、夢を叶えるんだから!
 それに、私は昂志と……。
 そこまで考えていたら、お婆さんがスマホでだれかに電話してる声が聞こえてきた。
 慌てて耳を大きくして息をひそめる。

「あ、もしもし。鐘石静波ですが、担任の先生はいらしゃいますか……」