「何故中に」

「誰かが近づいてくる音がしたので」



しましたね。



「何故中に入れる必要があったんですか?」



雨枝葉さんが私から離れる。



「俺と付き合ってるって噂が立ったりしたら、戸温さんが嫌かと思ったので」



噂……。



「戸惑いますけど、嫌とは思いません」



雨枝葉さんは嫌でしょうが。



「これ、レストランに落としてましたよ」



私は右手に持っていた黒の財布を雨枝葉さんに渡す。



「ありがとう…」

「用は済んだので、部屋に戻ります」

「部屋まで送るよ!」

「…噂になりますよ」

「嫌じゃないんだろ?」

「雨枝葉さんは嫌じゃないですか」

「もう一度抱き締めたいって、思ってる俺が?」