【side隼人】

っ、はぁ…。
やってしまった…。
あんな傷つけるような言い方…。
「〜っ、くそ…」
ドカッと壁を蹴りつける。
「隼人くん?検査の時間だよ」
「あ、はい。今行きます」
そう返事をして、とりあえず検査に向かう。
検査と言っても常連の俺は特に新しくすることもなく、体調や変わった事などを聞かれて終わった。

自室に戻り、ベッドに座る。
窓の外をぼんやり眺めながら、俺は昔のことを思い出した。


俺の新しく出会った友達、七瀬花鶏。
花鶏の第一印象は、凄く可愛い子。
薄紫色の、綺麗なサラサラロングヘアーに、ピンク色の瞳。
彼女には出会ってすぐだけど、いい人だなぁという印象があった。
少なからず信頼を寄せていた矢先。
検査とオンライン授業をサボった、という事実が発覚。
その事実にショックを受けた。
俺は…もう残りの命は少ないから。
花鶏は見たところ元気そうだし…。
俺はやりたいことが出来ないのに、どうしてやれるのにやらないのか__。
そんな思いで花鶏に八つ当たりしてしまった。


余命宣告されたのは、もう今から半年前。
憎たらしい程よく晴れた4月。
『隼人くん、落ち着いて聞いてね。君の命はあと…3年だよ』
あの時は本当に悔しくて悲しくて虚しくて。
負の連鎖しか起きなかった。
そんな時、俺を救ってくれたのが…花鶏だった。

花鶏との出会いは5月くらい。
待合室でたまたま出会った。
検査に来ていたのかお見舞いに来ていたのかはわからなかったけど、母親らしき人に連れられて、厳しい顔つきで椅子に座っていた。
そして、彼女が席を立ち。
__っ、え?
こっちに…向かって、来る?
「あの…ごめんなさい、お手洗いって何処ですか…?」
恥ずかしそうに聞いてくるキミに…一目惚れしてしまった。
「えっと…そこのカウンターを左に曲がって、真っ直ぐ行くとあります」
その時は思春期真っ只中で、ほんとに塩対応だったけど、それには構わないように微笑んでくれたキミ。
「っ、ありがとうございます…!」
恥ずかしそうに頭を下げるキミは、本気で天使か何かに見えた。
「あ、っ」
慌てて走って行ってしまい、それもそうかとため息をつく。
その後検査に呼ばれてしまい、君とはもう会えなくなってしまった。


そんな貴方が___こんなに近くで再会できるなんて。



出会った時よりも少し髪が伸び、ポニーテールが揺れる姿が大人びている。
その姿に、俺の心は揺れた。
ごくり、と喉を鳴らす。
あの子だ。
『こんにちは』
思わず声をかける。
『えっ、あ、はい、こんにちは…?』
彼女は不思議そうに挨拶を返してくれた。
『俺、都築隼人。よろしく』
『え、あ、よ、よろしくお願いします…』
そこから距離を詰めようと思い、ぐいぐい行き過ぎてしまった。
「あー…くっそ…」
距離を詰めすぎた分、ダメージは大きい。
「絶対怖がらせた…」
はぁ…と大きなため息をつく。
あー、なんとか出来ないかなぁ…。
それから俺は、なんとかする方法を必死に考えた。