そこまで彼が言った時、ガチャリと扉が開く。
「隼人〜?そろそろ…」
「帷」
とばり、と呼ばれた、茶色の髪の男の人。
「帷、この子は花鶏。さっき会ってさぁ、友達になった!」
「さっき?お前またそーゆー…」
ふぅっとため息をつく彼。
「隼人の友達、黒野帷です。隼人とはずっと仲良くしてて」
そう言って微笑む、物腰柔らかそうな帷さん。
「俺のことは帷って呼んで」
「は、はい…帷、先輩?」
すると、ちょっと眉を上げた帷さん。
「先輩なんかいらない。タメでいいし」
「えっ…じゃあ、帷さん…?」
「…ん」
帷さんが満足げに微笑む。
「で、要件は何?帷」
「そうそう。検査もうちょいだよ〜って」
「へーい」
めんどくさそうに返事をして立ち上がる隼人。
「じゃあ花鶏、またね」
手を振ってくれたので振り返す。
バタンと扉が閉まる音が響き、緊張が溶けた私はその場に座り込んだ。
「ふぅ…」
綺麗な青空の西の方に厚い雲が見える。
一雨きそうだな…なんてババくさいことを思い、そっと手すりに寄りかかった。
今頃、きっと授業が始まってるな。
一応無断欠席だけど、病院にいるから色々あったと認識して貰えるだろう。
手すりを蹴りつけながらボソリと漏らす。
「あーあ、サボっちゃった…」
「やっぱりな」
ビクッと肩を震わせる。
慌てて振り返ると。
「は、やと…っ!?」
「そんな事だろうと思った」
なんで…っ。
扉が閉まった音、確かにしたのに…!
「オンライン授業サボって、検査もサボったらしいじゃねーか」
さっきとは打って変わって、低音ボイスの隼人。
1発で怒っているとわかる声に、びくりと肩が震えた。
「なんで、そーゆーことすんの」
恐る恐る隼人の顔を見る。
そこには…今にも泣きそうな、傷ついた表情の隼人がいた。
「花鶏だから、して欲しくなかった…」
辛そうに俯いた隼人は、くるりと踵を返した。
「っ、はや…」
「俺だって」
私の言葉を遮るように口を開いた隼人。
「俺だって…出来ることなら、…っ」
出来ることなら…?
どういうこと…?
「なんでもない。じゃあな」
そう言い残して、隼人は今度こそ出て行ってしまった。