【 貴方との出会い】

あーあ、つまんないの。
ダルい。
早く家に帰りたい。
そんな思いが私を包みこむ。
私の名前は七瀬花鶏。
あとり、と読む。
ごくごく普通の中学生だ。
…あることを除いては。
「花鶏ちゃーん、検査の時間だよー」
そう。
私はこの双葉病院に入院している。
毎日決まった時間にバランスの整った食事が1日3食。
勉強時間はオンライン授業で1日6時間。
自由時間はなんでもしていいけど、病院から許可なく出るのはダメ。
きちんと睡眠をとるため、消灯時間には電気が全部消され、看護師さんが巡回。
そんな繰り返しが嫌になり、自由時間を求めてそっと自室を抜け出した。
どうしよう…どこに行こう。
トイレとかだと捜されるから…。
あ、そうだ。
屋上に行こう。
屋上の鍵が壊れていると看護師さん達が話していたのを聞いたことがある。
そっと非常階段を登り、屋上のドアを開く。
そこには。
「うっ…わぁ…!」
ものすごく綺麗な青空。
空の青と雲の白が憎たらしいほど綺麗だった。
そして…柵に寄りかかっている先客を見つけた。
「っ、あ…」
その人がくるりと後ろを向いてしまい、バッチリ目が合う。
「こんにちは」
「えっ、あっ、はい、こんにちは…」
テンパりまくって言うと、その人はニコッと微笑んで言った。
「俺、都築隼人。よろしく」
「え、あ、よ、よろしくお願いします…」
すると、彼はくしゃりと表情を崩して。
「ふふっ…そんなに緊張しなくてもいいのにっ…」
「え、あ、あの、私は中学生なんですけど…貴方は何歳ですかっ…?」
「俺は13!中2だよっ」
ってことは…1個上だ。
「あ、そうだ。君の名前聞いてなかった!」
ハッとした表情に変わり、目をキラキラ輝かせる彼は、とても年上には見えなかった。
…失礼だけど。
「七瀬花鶏、です…」
「あとり?」
「はい」
「キレーな名前だね」
っ!
「あ、ありがとうございます…」
びっくり、した…。
変な名前って、不思議がられることがほとんどで。
凄く、嬉しい。
「タメでもいいよ?ってかタメにして、お願い」
「えっ」
年上には敬語じゃないのかな…。
「…ダメ?」
悲しそうに眉を下げられ、断れなくなる。
「っ、う、うん…」
少し恐れ多いけど…呼ばせて貰おう。
「ありがと。俺のことは隼人って呼んで」
そう言って笑う彼に微笑み返した。