「っ、そんな……」
絶句したように口に手を当てる花鶏。
あぁ…こんな顔させたいわけじゃないのに。
「ごめんな……、ごめんなぁ……っ」
花鶏を強く強く抱きしめる。
「ううん……大丈夫だよ、私は平気…」
花鶏の強がりすら心が痛む。
花鶏……花鶏。
「本当に、ごめんな……っ」
すると、背中にぽんぽんと柔らかい感触。
っ……?
「大丈夫だよ、私は大丈夫だから……」
あ、とり……。
そのとき堪えていた何かが切れる音がして。
俺は気づいたら涙を流していた。
「う……っあ、はぁっ……うぁぁあぁぁっ……」
ボロボロと泣き崩れる俺を、花鶏は優しく撫でてくれる。
「大丈夫……大丈夫」
そう言えば……人前で泣くのなんていつぶりだろう。
俺は親の前ですら滅多に泣かない。
最後に泣いたのはアイツらの前__夏や朝日、帷の前だった。


あの日は、余命宣告をされた日で。
親は泣き崩れてどこかへ行き、俺は頭の中が真っ白になって、震える指でLINEを打ったのを覚えている。
『一生のお願いだから、今から中庭来て』
『どした急に』
『いーよー、暇だし』
『今から行くわ』
俺のワガママLINEに、快く応じてくれた3人。
震える声で言葉を紡ぎ、恐る恐る伝えた事実。
帷は『え?』と言い、朝日は『ドッキリ、でしょ?』と震える声で言ってきて、夏に関しては絶句。
『ドッキリなわけ、ないよ。隼人はそーゆー冗談言わないよ』
そうやって優しく朝日をさとす帷。
俺が泣いた瞬間、朝日も帷も……夏も、全員で泣いた。
夏は必死に涙を拭っているのがバレバレ。
あぁ……もっと一緒に、居たかったな……。
帷達にぎゅっと抱きしめられ、俺も抱きしめ返す。
のちに聞いた話、その現場を親や看護師は目撃していたらしく、親は仲の良い友達ができたのね、と微笑ましく思い、看護師は何事かと慌てたらしい。
ひときしり泣いたあと、涙を拭きながら中庭のベンチで喋りまくった。
くだらない話ばっかだったけど……本当に楽しかった。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに……って何十回も何百回も何千回も思った。
好き……大好き。
それから夏は俺を傷つけようとするやつに目を光らせるようになり、いつの間にか周りを信用しないやつになっていた。
まぁ、もともと女嫌いだったけどな……。
「アイツらにも、連絡するか……」
花鶏にそう言うと、花鶏はニコッと微笑んで言った。
「なら、私はもう行くね。男の子同士の方が気が楽でいいでしょ?」
花鶏……。
そう、花鶏はそういう気遣いが出来る子。
「あり、がと……」
「いいの。じゃあ、また明日ね!」
そう言って去っていく花鶏の背中には、寂しさと悲しさと……無力感という文字か残っていた。