「夏がごめんね花鶏ちゃん」
申し訳なさそうに謝ってくる朝日さん。
「っ、大丈夫です…!」
慌てて首を横に振る。
朝日さんが謝ることじゃないし…。
「夏は女嫌いだからさ…多分花鶏ちゃんに慣れるまではあーだと思うから、そこまで我慢して貰えると」
「わかり、ました…」
苦手なものや嫌いなものは誰にだってあるだろうし、私がそれを無理やりねじ曲げちゃいけない。
「花鶏、こっち来て。一緒に喋ろ」
「うんっ」
隼人の言葉にこくりと頷いて、隣に座る。
「っとゆーか!僕と同い年じゃない?花鶏ちゃん!」
朝日さんの言葉にハッとする。
「え?中1ですか?」
「うん!桜ヶ丘中学1年3組!」
桜ヶ丘中…あ、もしかして。
「この前サッカーU14の大会で優勝しませんでしたか?」
その言葉に、朝日さんはぱぁっと顔を明るくさせた。
「そう!あれ?花鶏ちゃん中学どこ?」
「虹先中です!準優勝の」
「ってことは、対戦してるチームなんだ!」
凄い…奇跡だっ!
…あれ?
「朝日さん…準決勝観てましたか?」
「うん、見てたよ。僕サッカー部のマネージャーやってるからね」
「冬瓜中対虹先中準決勝戦の後半。1対1の同点で、残り3分。冬瓜中の13番の脚に虹先中の15番の脚が引っかかってしまい、その後乱闘騒ぎになったのを覚えていますか?」
私の言葉に、朝日さんが顔色を変える。
「覚えてるよ。中学校の準決で乱闘はあまり起こらないし」
「その乱闘を止めようとして間に入り、怪我をした冬瓜中12番の選手。…その人ってもしかして…」
「そうだよ」
ふぅっとため息をついた朝日さん。
「冬瓜中12番のエースストライカー、雨宮夏。正真正銘、さっきの彼だよ」
やっぱり…。
夏さんが若干脚を引きずっていたのも、納得できる。
ごくりと息を飲む。
「ごめんね、暗い話をして…」
悲しそうに目を伏せる朝日さんに、もう何も言えなくなる。
「隼人、先に帰ってるね」
「俺も検査あるから帰るわ」
帷さんと朝日さんが立ち上がり、2人きりになった。
その途端、ぎゅっと後ろからハグされる。
「なぁ花鶏…あいつらは、悪い奴らじゃないんだ。…信じて」
耳元で苦しそうな声が響く。
「大丈夫。私は大丈夫だから」
そう言って微笑むと、隼人はふっと口を緩めた。
「ありがとう」
くしゃくしゃと頭を撫でられ、私も口が緩む。
「じゃあ、またLINE送ってもいい?」
「もちろん!」
こくりと頷く。
隼人からのメッセージは、いつでも大歓迎だ…!
「病室まで送る」
「えっ…」
いいよと断ったけれど、どうしてもと言うのでお言葉に甘えて送って貰うことに。
病室まで歩いていくと、唐突に隼人が足を止めた。
「どうしたの?」
「なぁ花鶏…俺のこと好き?」
それは…どういう意味だろう…?
わからないけど、私が言うべきことは。
「うん。私は、隼人のことが大好きだよ」
そう言って笑うと、隼人ははぁ…っと歓喜の声を出した。
「良かった…正直朝日に嫉妬してた」
し、嫉妬…?
「安心した…」
ほっとため息をつく隼人。
思わず手を伸ばして、隼人の頭を撫でる。
その瞬間。
バタンッ!
隼人が、倒れた。
っ、え?
はや…と…?
「隼人!?」
私の絶叫が、廊下に響き渡った。