「……んっ」

ゆっくりと何度も甘噛みされ、びくんと肩が震えた。
抵抗しなければと脳では分かっているのに、唇を割って滑り込んで来た甘い刺激に思考が蕩けてゆく。

「んっっ……っ…」

濃厚なキスだって、初めてじゃないのに。
楢崎のキスは味わったことのないほどに優しく、感覚が麻痺しそうなほどそそられる。

「少しは抵抗しろよ」
「……っ」

こんなにも呑まれるほどに気持ちいいキスは初めて。
アルコールのせいなのかな。
クラクラとした感覚に襲われ、体に力が入らない。

キスしたことを後悔したのか。
唇を離した楢崎は無言で抱きしめて来た。

これまでも何度か楢崎に抱き締められたことはあるけれど、今までのそれとこれとは少し違うように感じる。
服越しの彼の鼓動が、いつもよりだいぶ早い律動を刻んでいる。

「もう限界」
「……?」
「一からやり直さないか?」
「……ふぇっ?」

思いもしない彼の言葉に、思わず間の抜けた声が漏れ出した。
ゆっくりと顔を持ち上げた彼と視線が絡まる。

「この表面的な関係を撤廃したい」
「……撤廃?」
「鮎川と、本気の恋愛がしたい」
「え、それって、……私のことが好きってこと?」
「……五歳のガキに嫉妬するくらいは」
「っっ」

軽く視線を逸らした彼は、はにかんだような顔をした。

「ってか、お前、警戒心無さすぎ」
「へ?」
「男の家で酒飲んで目瞑って……無防備すぎんだろ」
「っ……ちょっと、酔ってるの?」
「酔ってねーよ、これくらいじゃ」

フッと鼻で笑った彼は、ゆっくりと顔を近づけて来た。
またキスされる!と思った私は、慌てて目をぎゅっと瞑った。
けれど、唇にも他の場所にも何も起こらない。
恐る恐る目を開けると。

「言ってるそばから、目瞑んな」
「っっ~っ」