鮎川の手首を掴んでいる奴の手を振り解き、彼女を背に隠すように前に立ちはだかる。

「彼女に散々嫌な想いさせておいて、どの面下げて彼女に会えるんですか」
「君には、関係ない」
「関係ありますよ。今は俺の彼女(・・・・)なんで」
彼女(・・)なんだろ?」
「は?」
「俺は今、彼女にプロポーズしてるんだ。邪魔しないでくれ」

意味わかんね。
こいつ、相当ヤベー奴じゃん。

「邪魔をしてるのは貴方の方でしょ。部外者は引っ込んでて下さい」
「あ?」

俺の言葉にカチンと来たのか。
澄ました顔が歪んでゆく。

ベンチに座るカップルの視線が気になりつつも、痛い目を見るのは俺らじゃない。

「つぐみ」
「人の彼女を呼び捨てにすんな」
「お前の方こそ、引っ込んでろよ」
「はぁ?」
「つぐみがあんたを見る目は、恋人に向ける視線じゃねぇ。俺を見つめてたつぐみは、もっと女の顔をしてたよ」
「っ……」

くそっ。
痛い所を突いて来やがる。
確かに俺を見る目は、六年前のあんたに向けてた目とは雲泥の差かもしれない。
だからって、過去がリセットされると思うなよ?

「俺らの関係にヒビを入れたいのかもしんねーけど、俺らは別れないから。っつーか俺ら、結婚する予定なんで」
「ッ?!!」
「あんたがどう思おうと勝手だけど、俺は彼女からプロポーズの返事も貰ってるんで」
「嘘だっ!…でたらめ言うなよっ」
「何を根拠に?……これが見えませんか?俺、弁護士なんで、嘘は吐きませんよ」
「っっっ……」
「そういうことなんで。二度と彼女に関わろうとしないで下さい。これ以上付き纏うようなら、法的処置取りますので。つぐみ、帰るぞ」
「……ん」

震える彼女の手を掴み、駅へと歩き出す。

「あぁ、そうだ。俺らの披露宴の司会、良かったら引き受けて下さいね?貴方にその気があるなら」