「あらっ、手が滑ったわ。ごめんなさいね」
「……いえ、大丈夫です」

女の苛めは陰湿だ。
日々のストレスを発散するには、かっこうの餌食なのだろう。
部署が違い、普段は殆ど話したこともない人であっても、こういう時は知人のような態度を示すのだから。

レディースランチのサラダにドレッシングをかけようとしたら、勝手にケチャップをどばっとかけられてしまった。
返品するわけにもいかず、そのままトレイを手にして空いてる席を探していると、奥のテーブルで手を振る瞳を見つけた。

「また、何かされたの?」
「……う、うん」
「あっ、ケチャップかけられたの?!」
「……付け合わせのサラダだから、食べなくても…」
「そういう問題じゃないでしょ。……SDGs じゃないし」
「…フフッ」

カシャッ。
スマホで私のランチを撮影したようだ。

「瞳?」
「やられっぱなしは腹立つじゃん!」

見た目はか弱い女性に見られがちで、恋愛脳の今時女子だけど、瞳は自分に正直で行動力もある。
あまり感情を表に出さない私をいつも気にしてくれる優しい人だ。

「楢崎のやつ、既読スルーしてんだよね!」
「え?」
「自分は言いたい放題言っておいて、つぐみのフォローを完全スルーとか、どう考えても許せないじゃん!こういう時は、男が盾になるもんでしょ」
「……別に、楢崎にどうこうして貰おうとか思ってないから」
「は?」
「こういうのはさ、時間が経てば自然になくなるし。ヒートアップしてるのも、今だけだから…」
「だったとしても、つぐみだけ嫌な思いするとか、ありえないよ!あいつにも、少しくらい痛み分けしてやらないと!」
「……」