「ご新婦様、そろそろお時間になります」
「はい」
「気を付けてね」
「…ありがと」

ゆっくりと椅子から腰を上げる。
ベール越しに見える新婦の睫毛は、既に少し濡れているようにも見える。

純白のグローブに包まれた手にそっと支え、ふんわりとした総刺繍のドレスの裾を優しくつまみ上げる。
新婦の右手には、ガーベラとバラで出来たラウンドブーケ。
愛らしさと華やかさがあり、総刺繍のプリンセスラインのドレスによく映える。

「ゆっくりでいいからね?足下よく見て…」
「うん」

新婦控室から新郎が待つ通路へと。

「ご新郎様。ご新婦様のお手を」
「気分悪くないか?」
「大丈夫」
「疲れたり、お腹が張ったりしたら遠慮なく言えよ?」
「…うん」
「今日はありがとな」
「何よ、改まって」
「一応、礼儀だろ」
「フフッ、何それ」
「ったく、気遣ってやったのに」
「今日は主役なんだから、気遣い不要だよ」
「……おぅ」
「じゃあ、私は一足先に行ってるね?」
「おぅ」
「ありがとねっ」
「凄く綺麗だよっ!」

挙式が十分後に執り行われる。
新郎新婦が見つめ合うのを見届け、介添え役は一足先にチャペルへと向かった。



祭壇の奥は一面のガラス張り。
参列者の席から七段高い位置にあるため、青く澄みきった空に新郎新婦の姿が美しく映える。

「新郎 純也さん あなたは月に一度はデートに連れ出し、子供が大きくなっても、私がシミやシワだらけのおばあちゃんになっても、今日という日と変わらず愛の言葉を囁き、いつまでも一緒にいられるように健康に気を遣い、長生きすることを誓いますか?」
「誓います」

チャペル内にクスクスっと笑い声が響く。