『絶食男子、解禁』


帰路に着くため、京都駅で鮎川と法務部への土産を選んでいると、スマホに着信が。
(ごう)”という文字に、一瞬呼吸するのを忘れる。

「はい」
「峻?今、平気か?」
「……ん。出張から帰るところ」
「そうか、悪いな、仕事中に」
「どうしたの?こんな時間に」

通話の相手は兄の豪、三十三歳。
仕事の休憩時間にでもかけて来たのだろう。

優里奈(ゆりな)が、帰国したって知ってるか?」
「そうなの?」
「あぁ。暫く仕事で日本にいるらしい」
「へぇ」
「お前に会いたがってたぞ」
「……っそ」
「相変わらずだな。峻のこと慕ってんだから、もう少しかまってやれよ」
「余計なお世話だよ」
「時間つくって、三人で飯でも行こうな」
「あー、はいはい」
「じゃあ、そういうことで」
「んー」

相変わらずなのは、兄貴の方だ。
ロシアのバレエ団に所属している幼馴染の優里奈は、幼い頃からずっと兄貴のことが好きだった。
というより、女の子は誰でも、イケメンで優しい好青年の兄をみんな好きになる。
優里奈も漏れず、その女の子の一人。
幼馴染だから少しばかり距離が近いというだけで、兄貴は何とも思ってない。
数年ぶりに帰国して真っ先に連絡をしたのだって俺ではなく、兄貴にだ。

一時期、優里奈を好きだった時もある。
でも、今なら分かる。
近い存在だったから、好きだと勘違いしていただけ。


十六時三十分発のぞみニ三六号。
東京駅着は十八時四十五分。
残業や習い事がなければ、家に着く頃なはず。

「鮎川に会いたいな。今夜行ったら迷惑かな…」