お腹はすいていないと思っていても、甘いものや好きなものを口に入れると自然と食欲が湧いてくるから不思議だった。
そして食べている間は辛いこと、怖いことが少しでも緩和される。
美麗は郁と同じチョコレートを食べて思わず笑みをこぼした。

「勉強のときに食べるのとは、またちょっと違う感じだね」
「勉強のときに食べるチョコレートは脳を使いやすくさせるための道具だもんな。でも今は違う」

昂輝はそう言って板チョコにかぶりついた。
普段は小さく割って少しずつ食べるのだけれど、こうして食べたほうが格段に美味しく感じられる。

甘い味が口の中いっぱいに広がって、胸の中の不安を覆い隠してくれるみたいだった。
「食料はまだ他にもあるの?」

「あぁ。沢山あったよ。この学校は地区の避難所にも指定されてるから、食べ物や飲み物には困らないと思う」
「そう、よかった」
化け物がいる上に学校内で食料争いが起きてはたまらない。

ひとまずその心配はなさそうだ。