そして、その世界で初めに見たものは、仁王立ちでわたしの前に立ちはだかる青年と薔薇の花弁を散らす燕尾服のご老人の姿だった。
 何この、二人がかりの微笑ましい演出は……。

 周囲を見まわすと、そこはどうやらどこかの部の部室のようだった。
 けれど、壁に沿って等間隔には天使の彫像を支える白い柱が立ち、床はタイル地が敷きつめられ、まるでどこぞの宮殿?というような部屋に模様替えされているのだ。

「突然の登場に声も出ないようだな」
 目の前の青年がふんぞり返るようにして顎をあげ、そう言った。
「あの、声も出ないのは、この部屋に驚いてなんです。それに登場は全然突然じゃないし」
 散々がさごそしていたし、声も聞こえていた。

 わたしがそう言うと青年はご老人と顔を見合わせて頷きあう。
「ここに来てもらったのは他でもない。この部屋で運命の出会いを果たすためだ」
 ああ、聞こえなかったことにされた……。
 物々しい調子で青年はそう言うと、ご老人の引っぱってきた椅子に腰を下ろした。

「時間は十分にある。いや、明日になるまでではあるが。仏滅だしな。ボーイミーツガールはこれからだ――――」
 芝居がかった青年の口調や、それに拍手喝采するご老人に何だか微妙な気持ちになりながら、わたしは思っていた。

 どうしてこんなことになったんだっけ?