今の嘘嘘!
 やっぱりちょっと気にするよ、と言い直したい気持ちが湧いたけれど、
「本田さんは優しい人だね」
 と最高の笑顔で言われてしまうと、訂正出来なくなってしまう。なにこれ、アメとムチ?
 穂波君はすくっと立ち上がる。

「本田さん。SHRの後、少しだけ時間くれないかな」
「え、どうして?」
「さっきのことも含めてちゃんと話しておきたくて。このままだと俺、単なる変な奴だし」
「ま、まあね……」
 ごめん、穂波君。もう十分変な奴だと思ってしまったよ。

「でも、本田さんが良い人で良かった」
 穂波君はなぜか頬を少しだけ赤く染めてそう言う。

 穂波君のその感情の流れはまったく理解できなかったけれど、
「それは良かった……ははは」
 と話の流れのまま愛想笑いをしてしまう。

 ああ……どうしてこう流されやすいんだろう。
 そのとき、
『おわあっ!犬が逃げたぞ!』
『お前、そっちいけ!俺はこっちにまわる!』
 にわかに、下の階でどたばたと何人もの人間が動き回る音がしだす。

「……」
「何だか下のほうが騒がしいね」
 ああ、聞こえなかったことにしたい……。
『うわああ!窓から飛んでったぞ!』
『まじか!』
 ああ……。

「ほ、本田さん?どうしたの、急に顔がすごいことになっているけど……」
「穂波君、ちり取りお願い!わたし箒とってくる」
 ついでに幸太郎を締めてくる。
「うん、分かった。じゃあまたあとで」
 という穂波君の返事を背に聞いて、わたしは走りだした。