「夏休みなのに補習はダルい。すげーダルい。けど」
 幸太郎はそこまで言って、わたしの顔をうかがう。
「何?見すぎ、気持ち悪い」
「ちょっと見てただけで何倍返しだよ、それ!まあ、いいや。帰ろうぜー」
 つま先を弾いて靴を整えている幸太郎をみて、わたしも靴を履きかえた。
 幸太郎が1年生に人気があったなんて初耳だったなあ、とそのときぼんやり思った。
 可愛いって人気だというけど、どのへんがいいっていうんだろう?

 顔?見飽きてるし、全然良いと思えない。
 性格?奇行に走る能天気バカだし、ないな。
 雰囲気?やかましいし落ち着きがない、却下。
 そこまで考えて、わたしの脳みそは考え事に飽きてしまった。

 そんなわけで、幸太郎の人気の秘密なんて頭の外にすっかり放り出して、わたしは幸太郎と帰ることにした。
 道すがら、なんと言うことない話をして帰った。
 もっとも、幼なじみで、しかも小学校の6年間、中学校の3年間、高校の1、2年と同じクラスのわたしたちに、未だ開拓されていない話題があるとも思えないけど。