練習はいつもどおりバレー部と体育館を二分して行われた。
更に男子部と二つあるバスケコートを折半だから、実質使えるコートは一つだけ。女子部の面々は、そのコートの中でストレッチをする。
 男子部は既にストレッチを終え、壁沿いをランニングしている。

 そう言えば、穂波君も同じ部だったんだっけ?
 屈伸をしながら、走っているメンツに目を向けてみる。
 思えば、まともに男子部のメンバーを見たことなんてないかも。

 軍団の中、穂波君は前のほうを走っていた。わたしが見ていると、視線に気づいた様子で、目があう。
逸らすのもどうなのかと思い、とりあえず手を振ってみたら、なぜか穂波君はつまずいて、転びそうになった。

 同時に、
「本田あぁ!男子に色目使うんじゃないー!」
 顧問の金切り声と体育館履きが飛んでくる。
 何とか顔の前でキャッチして、投げ返す。

「ナイスキャッチ、ミサキー」とチームメイトの由紀が耳打ちする。
 それにしても、色目って、古いよ先生……。

 練習後、
「それにしても、今日もワニセン機嫌最悪だったねー」
 更衣室で着替えを始めると同時に、女子バスケ部部長の今井先輩が、そう切り出した。

「ねー、お陰で穂波君よく見れなかったんだけどー」
「あたしなんか、大塚先生良く見れなかったー」
 すると先輩達がたちまち話に乗っかっていく。
 確かに、今日の鰐淵先生は一段と機嫌が悪く、よそ見をしようものなら、もれなく体育館履きが投げられた。
 わたしを始め、ひょっとしたら皆一通り投げられたかもしれない。

「ミサキなんか、色目使うなって言われてましたよー」
 と隣で着替えていた由紀も、会話に入っていく。
「ちょ、ユキ……っ!」
「本田が色目?珍しー」

「ていうか、本田って、人類に興味あったっけ?」
「先輩、さすがにそれひどいです……」
 人類に対して興味の範囲が狭いのは自覚あるけれど。

「それで誰誰!?誰狙ってるの?」
「ねらっ……ちょっと見てただけです!」
「誰を?」
 先輩の一人にロッカーを背に追い詰められる。