幸太郎はわたしの手を引いて、階段を降りると、玄関の入口までやって来た。
 その間、わたしは幸太郎の後姿と、引かれる自分の手を見ていた。
 この光景には見覚えがあった。

 昔、楽しそうなことを見つけるたび、幸太郎はわたしの手をぐいぐい引いて、あちこちに連れてった。
 そして、振り返ると、にっこり笑うのだ。ミサキ、すげー楽しいな、と言って。
 そのときの光景だ。

「よし、逃げ切ったな!」
 幸太郎が振り返って後方を確認すると、ちょうど目が合う。
「ダイチのやつ、絡んでくるとしつけーから」

「ねえ、コータロー」
「ん?」
「手」

 わたしが指摘すると、幸太郎は繋いだままの手を見て、ハッとしてすぐに手を放した。そして、繋いでいた手を隠すように引っ込め、ばつが悪そうにする。
「あ、うん、これはあ、つい。習性っていうか」

「何か、すごく久しぶりにコータローと手を繋いだ感じする」
「ミ、ミサキ、やっぱ何か変だぞ」
 幸太郎は信じがたい、という顔をする。

「変って何が?」
「だって、ミサキがそんなしおらしいこと言うなんて、ぜってぇ変だ」

「確かに、わたしもそれはうすうす感じてはいるんだけど……。自然にそういう言葉が出てくるんだもん」
 穂波君のこともそうだし、補習中の奇行もそうだし、今日は言動が先走りがちだ。