その後、しばらく三人で登校していると、穂波君が誰にともなくぽつりと言った。
「そういえば、あの改造バイク、久しぶりに見たな」

 改造バイクって何だろう?と思ったときには、
「同じ部のやつ見つけたから、先行くね」
 穂波君は前を歩いている男子生徒のところに去っていってしまった。

 残されたわたしは、幸太郎と顔を見合わせるけれど、幸太郎も何のことだか分からない、という顔をしている。
 けれど、これもまた、わたしには妙なひっかかりとなって胸に残る。

 改造バイク。そんなものに心当たりなんてないはずだけれど。
 どうやら、今日は一日中こんな変な感じを引きずって過ごさなければいけないらしい。


 数学の補習の最中も、いつも空席の自分の隣が気になり始めて、しばらく考え込んでいた。
 この席には誰が座っていたんだっけ、と。

「あーあーあー!ちっとだけ静かにしてくれよ!」
 だから、蝉の声に応戦するように、幸太郎が窓際で叫びはじめのにも、しばらく気づかないでいた。

「ミーサー。あれあのままでいいの?」
 と通路を挟んで隣のまほりが肩をペンでつついてくる。

 見ると、幸太郎が窓枠に両手でしがみついて、檻に入れられたサルのようにガタガタ揺らし、
「あー蝉よー静かにしてくれぇー!」
 校庭に向かってシャウトしている。 

 他の面々は、気だるそうに幸太郎を一瞥するだけで、すぐに教科書へ視線を戻す。
 幸太郎と同じサッカー部の紀瀬も斉藤でさえも、そんな冷ややかな対応だ。
 こう暑いと、いちいち突っ込みを入れるのも面倒になる気持ちは分かるかな。

「コータローうるさいから、静かに――――」
 ここまで言いかけたところで、ドドドドと地響きのようなエンジン音が聞こえ、わたしは考える間もなく机の上に立ち上がっていた。

 いっせいに、クラスにいた全員の視線がこちらに向いたのが分かった。