「焔ちゃん!」
 わたしは、そばに転がっていた龍の玉のかけらを拾うと、龍へと投げる。

 龍の身体に当たったかけらは溶けるようにして、その鱗へと吸収されていく。
『おお。力が満ちるぞ』
 龍は天を仰ぐように顔を上にあげると、身体を打ち震わせる。

「今なら、わたし達に起こっているすべてのことを元に戻すことが出来る?」
 まほりがわたしにかけたおまじない、入れ替わってしまったわたしと幸太郎の身体、そして、『わたしたち』の消えた世界。
 それが、わたし達を取り巻く、異常事態だ。

『可能だ。だが娘よ、前にも言ったとおり、我の力にも限界がある』
 まほり達とかけら探しを始めるときに、龍は言っていたのだ。
 龍の力ですべてを戻すには、事が入り組みすぎていると。

「分かってるよ。だから、焔ちゃんの言っていた方法でいい」
 わたしは戸田さんとも相談をして、その方法でいいと決めた。
 例え、今のわたし達のとって、ちょっとだけ悲しい結果になったとしても構わないと。

「ちょっと待てよ、ミサキ。何だよその方法って」
 真っ直ぐな眼差しで幸太郎はわたしを見る。

 そんな表情を見ると、わたしの姿をしていても、紛いようもなく幸太郎だと分かる。
 伊達に長年幼なじみをしているわけじゃない。
 だから、本当のことを言えば、幸太郎が駄目だと言うのも分かっている。

「やってみれば、分かるよ。焔ちゃんお願い」
 わたしがそう言うと、龍は幸太郎の胸元を見る。

『本当に良いのか。お前の胸の焔は――――』
 わたしには、胸の焔を見ることは出来ないけれど、どんな焔が燃えているのかは、分かっている。
 だから、龍の言おうとしていることも分かるつもりだ。

「大丈夫だよ。きっと、全部消えちゃうわけじゃないから。というか、例え消えてても、全部引き寄せてみせるよ。それにね、焔ちゃんは見守っててくれるんでしょ?縁を司る神様なんだから」
『なるほど、気の多い娘だ。興味深い。良いだろう、お前の望むままに』

 龍がそう口にした途端に、空気の圧力がぐっと強くなり、琥珀色の気流が生まれる。