そんなリリカルな思いも心によぎったけれど、二人の下世話なやり取りを見ていたら、どうでも良く思えてきた。

「……やなもん見ちまった」
「えーでも、ビジュアル的にはありじゃないかな?」
「なんて言うんですか、耽美系?」

「えーと確か、ボーズ系?」
『末法系かもしれぬな』

 そう、見た目上は、穂波君が幸太郎にキスしたようにしか見えないのだ。
 火恩寺君達をはじめにして、周りにいた生徒達もざわめき始める。

 龍があたり前のように会話に参加しているけれど、みなさん、見とがめる様子もない。
「ミ、ミサキ……」
 幸太郎は青い顔をしてこちらを見る。勝手になんとか系にされて、ソッチ側の人にされても困る、と言いたいらしい。

 でも、
「んん……胸元に激痛が……。ん、何で横堀が上に?」
 一番の被害者は、勝手に身体を使われた挙句にわたしにラリアットされ、幸太郎にキスすることになった穂波君だと思う。

「ごめん、ちょっと色々立て込んでいて」
 わたしは穂波君の上から退き、手を貸して彼が起き上がるのを手伝う。

「何だかよく分からないけど……」
 穂波君はわたしの顔を見て、目をしばたく。
「あれ……横堀、何か感じが変わった?」

「うん、変わったかもしれない――――」
 わたしは、穂波君に手を差し出す。
 こんなタイミングでこんなことをしても、変に思われるだけだと思う。

 何のことだか、穂波君にはきっと分からないだろうから。
 穂波君は不思議そうな顔をして、それからわたしの手から生えている幸太郎にぎょっとして、と百面相をしながらも、わたしの手を握り返してくれる。

 多分、この穂波君はわたしのことを知ることはないだろう。
 それは寂しいことのような気がするけれど、全てが片付いた先で、またちゃんと出会えるから、今はこのままでいい。