「もう少し物色してから、帰らせてもらうよ」

 プリンスは、捨て台詞のようなものを吐いて、例によって例のごとく空中に、指で輪を描き始める。
 後手に回っているわたし達では、そのプリンスを止められない――――。

「焔ちゃん!」
 わたしが呼びかけると、ガッシャンとすごい音を立てて、廊下の窓ガラスが割れる。
 同時に窓から焔の塊が飛んできて、目の前の紗の壁を焼き払う。

「!?」
 プリンスは慌てて飛びのき、指の動きを止めた。
 更にたくさんの窓ガラスを割りながら、焔生の龍が窓から身体をはい入れてくる。

『うむ。良い焔が身体にくすぶっておる。まだ何か燃やすか?』
「いや、もういいよ。ありがとう焔ちゃん」

 田畑を焼き尽くしてしまったら、焔の縁伝説再来になってしまう。
「人間界には、中々に面白いものがいるんだね。でも、ドラゴンなら魔界にもいるから、お土産にはならないな」

 プリンスは、再び指を動かし、去ろうとするけれど――――。
 黒い影がプリンスの後ろに飛んできて、その両手を掴み、ねじりあげる。

「タツヒコ!?」
「悪りぃな。けど、あんたは俺を負かした穂波さんじゃねぇからな。さっさと出ていけ」

「そんなこと言っていいのかな?君は僕の姿が怖いんだろ?顔色がずいぶんと悪いけど」
「……そんなことねぇ」

 確かに、火恩寺君の顔色が悪いのは相変わらずだ。穂波君の中にいるプリンスの本当の姿が見えているせいなのだと思う。