そう、穂波君の了承を得たところで、場所を移動しようということになった。
 のだけれど……。

 穂波君を先頭に合宿所内を歩いていたはずのわたし達は、いつの間にか、視界の両サイドを岩場に囲まれた道を歩いている。

 どこをどう通ってきたのかはまったく分からず、今こうして気づいた瞬間に、ぽんとこの場に放り出されたかのような感じがした。
 どう考えてもおかしい。

「……気をつけろ」
 と横を歩いている火恩寺君が小さく声をかけてくる。
 そう言われても何に気をつければいいのか分からない。

「ほ……カズシ、ちょっと待てよ」
 わたしは、周囲の変化に気に止める様子もなく先を行く穂波君に声をかける。

 すると、穂波君は軽やかに振り返ると、
「無理しなくて良いよ」
 微笑を浮かべながら、そう言う。

「無理?」
「無理して横堀幸太郎であろうとする必要ないってことだよ。本田さん」
「え?」

「あれ?間違っていたかな。君、本田美咲さんって言うんじゃないの?」
「ど、どういうこと?わたしのことを知ってるの?」

「教えてもらったんだよ」
「教えてもらったって、誰に?」

 わたしがそう口にすると、穂波君はそれに答えることなく、わたしのそばに寄ってくると、顔を寄せ、
「見た目がこれじゃ、興ざめだな。けど、そのアンビバレンスがいいのかな」
 そう言う。

 穂波君から不思議な香りがして、クラクラとよろめきそうになり、わたしは慌てて飛びのいた。