火恩寺君に連れてこられたのは、合宿所内の屋内運動場の前だった。
 換気のために開け放たれた入口からは、バレー部やバスケ部が練習をしている様子が見える。

 穂波君はここでもバスケ部なのかな?
「この中に穂波君がいるの?」
 わたしがそういうや否や、見る見るうちに火恩寺君の顔色が悪くなっていく。

 生徒であふれる屋内の中の一点を見つめ、
「何であんなのがいやがる。米粒の化け物か……?」
 苦々しくそう呟く。

 米粒の化け物?何その意味不明な表現。
 という突っ込みを胸に、火恩寺君の視線の先を追うと、練習試合の最中の穂波君の姿に行き当たる。

「穂波君がどうしたの?」
「てめぇには関係ねぇだろ」
 と言うけれど、火恩寺君は立ち尽くしたまま一向に動こうとしない。

 このまま待っていても埒が明かない。

「わたしが一人で行ってくるね」
「女一人に行かせられるか」

「でも見た目は男だよ」
「俺には男に見えねぇ。見えてれば楽なんだろうがな」
 そう言いながら、ため息をつく。

「火恩寺君は、何か怖いものが見えるの?」
 わたしが尋ねると、火恩寺君はためらいながらも、
「昔から、そいつの本質が見える。とりわけ厄介なものを抱えてやがるやつの本質が」
 そう話してくれる。

 そういえば、前に、幸太郎と入れ替わったわたしを、「見えた」と言って当てたことがあった。

 ひょっとしたら、あの時の火恩寺君は、今、目の前にいる火恩寺君のように、「見て」いたのかもしれない。
 でも、あの時の火恩寺君は、恐れる様子もなく、嫌がる様子もなく、見えることをとても自然に扱っていたような気がする。
 そのことを思わず口にすると、火恩寺君は目を丸くする。