「どうしたの?」
『今、力の気配を感じたのだ』
 わたしも慌てて龍の視線の方向を見るけれど、そこには各々クールダウンや片付けに走る部のメンバーの姿しかない。

「この中に、いるの?」
『いや、通り過ぎたようだな。だが、確かに目にも止まらぬ速さで通り過ぎる何かがいたのは間違いない』
「目にも止まらぬ速さ……」
 そういう表現が似合う人物が一人いたような気がする。

「ひょっとしたらそれって――――」
「うわわわわっ!建物が人を食べたぞ!」

「こっちは噴水が水撒き散らしながら威嚇してきやがる!」
「うそっ!木が歩いてるんだけど……!」

 あちらこちらから生徒の声が上がる。
 しかもどの声もがのっぴきならない事態を伝えている。
 わたしが龍と顔を見合わせる。

 思った以上に早く魔法が影響を及ぼし始めたようだ。
 今の龍にも、勿論わたしにも事態をどうこう出来る力はないけれど、放っていけるわけもなく、わたし達は騒動の場所に急いだ。