『熱情に身を任せるのは、悪いことではない。だが、そのお陰で些か面倒なことにはなっておる……』
 そして、すべて言い終わる前に、龍の眼差しがこちらに向いた。

『ほぉ。魔力が失われたとはいえ、さすが我が肉体。周囲で揺れるとりどりの焔が見えるぞ。お前は我の花嫁となるはずだったあの娘か』
「げ……っ」

 諸々の説明をしなくていいのは嬉しいけれど、花嫁、という単語を持ち出されると、どうしてもおよび腰になってしまう。
 龍はくりっとした目でわたしを見る。まるで品定めをするかのように。

「な、何でそんなに見るの?」
 そして、それから、ふぅぅと鼻から大きく息を吐き出して、
『不思議なものだ。我に目にも見えぬ焔があるとは。見えるはその残影のみか』
 少しがっかりしたような、それでも納得したような調子で龍は言う。

 人のことをじろじろ見ておいて何わけの分からないこと言ってるわけ、と心の中では思ったけれど、さすがにそれは口に出来なかった。

「えーと、今のは何の話?」
 そう尋ねると、
『以前は燃えておらなんだお前の焔が、燃えているようなのだ』
 龍は端的にそう教えてくれた。

 焔が燃えているっていうのは、穂波君の解釈だと確か、恋をしているということらしいけれど……。