教科書の入っているカバンの他に、午後の自主トレのために着替えの入ったスポーツバックも持参した。
「俺が犬になっちゃったっていうのに、部活に出る気なのかー」とか幸太郎にはぼやかれそうだけれど、出れるのに出ないと顧問に怒られるからしょうがない。

 案の定、わたしがスポーツバックを背負って出て行ったら、
『ミサキの裏切りものめ!俺が犬になって、大変だっつーのに、部活出るなんて!』
 と叫ばれてしまう。
「うるさいなあ……」
『俺なんかこのままじゃ補習にも出れねーし、後期の通知表がものすごい危機なんだからな!』
 幸太郎は体育やその他の実技科目が全然駄目なのだ。
 わたしも人のこと全然言えないけれど、幸太郎ほどではないと思う。

「仕方ないでしょ、顧問に怒られるのやなんだもん」
「確かに、女子バスケ部の鰐淵先生、ものすごい怖いもんね。ヒステリーが」
「そうそう。特にこの前婚約破棄されて、その後はマッチングアプリで出来た彼氏にふられたらしくてね……」
 シュートが決まらないと、金切り声で怒るのだ。スポーツウェアの裾噛んで、キィィィーって。
 そんなのを見ていると、大抵の怖いものなんて大したことないと思えてくる。思い出すだけで、背筋がぷるぷるして来た。

 そんな思いを払拭するため、わたしは別の話題をふる。