わたしは、色々と幸太郎の沽券に関わる方法で逃げ出して、まほりの傍に駈け寄っていく。
 想像通り、戸田さんは落とし穴にいた。

 戸田さんはすっかり怯えきった顔をしてこちらを見上げている。
 そんな様子を見たら、手荒すぎる作戦だったのかもしれない、と少し後悔した。

 けれど、そうまでしてでも聞きたいことがあるのは本当だから、まほりと二人で戸田さんを引き上げた後に、わたしは、
「こんなまねして、ごめんね、戸田さん。でも、どうしても聞きたいことがあるんだ」

 そう言った。
 わたしの言葉に、戸田さんの顔はためらいの色を見せながらも、静かな調子で、
「さっきの……。イッセイくんのことを好きって言ったの、本当?」
 そう尋ねてきた。

 すごすごと宿舎に戻る松代君の後姿に、その視線が注がれる。
 見ると、戸田さんの瞳が揺れている。

 声の調子がおっとりとしていて、見た目も大人っぽくて、わたしからすればお姉さんっぽく映っていたこれまでの戸田さんとは、まるで違った。
 今の戸田さんは、ほんの小さなことにも揺れ動きやすい女の子、だった。

「さっきのは、嘘なの。ああすれば、戸田さんが出てきてくれると思ったから」
 わたしが言うと、戸田さんは肩を撫でおろして、
「そっか……」
 小さな声でそう言った。

 それから、小さくため息をついて、
「もう一人で頑張るの、疲れちゃった。勝手に暴走して馬鹿みたい……。横堀君のことも、わたしのせいなの」
 そう続けた。

「戸田さんのせい?」
「ふふっ、責めていいよ。本田さんの身体と大事な幼なじみを消しちゃったのは、わたしなんだから」
 自嘲気味に戸田さんがそう言うから、責める云々よりもまず、不思議に思った。

 どうして、戸田さんはこんな風になってしまったんだろう、と。