「やっぱり、こんなのみ――――ぎゃあああ!」

 女の子の悲鳴と、
「その決闘、ちょっと待った!」
 男の子の声が、朝の静寂を切り裂いた。

「え?……うわっ!」
 何事か、と認識する前に右腕を引かれつつ足を払われ、背中から地面に叩きつけられる。
 けれど、フワッと背中から何かに包み込まれるような感覚があっただけで、痛みはない。

 ここのところの、踏んだり蹴ったりのせいで、痛みに慣れてきているとか?

 そんなことを考えていたから、
「悪い横堀。ちょっと焦って投げてしまった」
 薄青の空を背景に、穂波君が手を差し伸べてくる。

 その手を掴み、わたしは体を起こした。今、わたしを投げ飛ばしたのが穂波君?
 じゃああの悲鳴は?

「穂波、一体何事だ?」
 すっかり興をそがれた様子の松代君が、不機嫌そうに言い放つ。
「胸騒ぎがして起きてみれば、ちょうど窓の外で横堀とイッセイが決闘をしているのが見えてね。イッセイに先を越されてはたまらない、とこうして割って入ったんだ」
「決闘なんてしてないけど……」

「何を今更……。頭突きをしようとしていただろ?」
「いや、あれは……」

「新たなる分野への挑戦をしていたのだ。邪魔をしないでくるか?」
 いつになく語気を強くして松代君がそう言う。
 なぜか唐突に、一触即発の雰囲気だ。