やにわに、
「試してみよう、ということだ」
 Tシャツの胸元をぐい、と引っぱられ、わたしは自然と前のめりになる。

「え?」
 唖然とするままに、松代君は指でわたしの唇をなぞってくる。
 色気のある微笑を浮かべながら。

 あ、あれぇ?
「君は、同性の中でも小奇麗な方だ。僕もそれならばやぶさかでない」
「い、いやいやいや!男に興味がないなら、こんなの止めたほうが良いよ!ていうか、むしろ俺なんか振っていいから!振ってください!」

「その謙虚な姿勢は悪くない――――」
 胸元をひときわ大きく引っぱられ、松代君の顔がぐっと近づく。
 嘘でしょ!?幸太郎の姿になったばかりか、強制的にぼーいずなんとかなんて……。

 いや、中身は女だから、それは違うのかな?
 そろそろと顔に呼気がかかる距離になり、わたしは息を呑んだ。
 どうしたらいい……?逃げようか。

 いっそのこと、手が滑ったふりをして松代君を投げ飛ばしてしまうとか。
 でも、そうしたらその時点でせっかくの作戦がパーだ。

 こんな余計な考えが頭を駆け巡っている間にも、鼻同士がこすれそうな距離に近づいていた。
 このままじゃ……本当にキスしてしまう。

 いいのか、わたし?というか、それでいいの?松代君!?
 相手、幸太郎だよ!?

 そんな考えが頭に巡るけれど、目的と本音との間に板ばさみになって、ただただキスへのカウントダウンをするだけになっている。

 戸田さんに話を聞くためにこうしているものの、戸田さんが松代君のことを好きなら、その松代君とキスしたわたしを許してくれるとも思えない。
 話なんてしてくれない、むしろ、わたしを消そうとすらするんじゃ。

 ひょっとして、ここで頑張っても頑張らなくても、待っているのは悲しい結末……?
 ああ、dead or live?

 こうして、わたしの脳内が一層の混乱を極め、互いの唇が触れ合う際まで迫ったとき――――