3人でゆき姉ちゃんを見つけたときには、その子とわたしはすっかり仲良くなっていた。

 ゆき姉ちゃんと合流して、親子と別れる間際、少年は少し名残惜しそうにして、
「またなー」
 とぶんぶん手を振った。

 わたしもお姉ちゃんに手を引かれながら、肩越しに手を振り返す。

 またねー、と。
『うっふ~ん、うっふ~ん、うっふ~ん』
 そのとき、濁った声が反響する。

 少年の顔や周りの情景がぐにゃんと歪む。
『起きて~ん、うっふ~ん、起きて~ん、うっふ~ん』
 夢か現かとまどろんでいた頭は、すっかり現に叩きだされる。わたしは、枕もとのそれをぱしんと叩く。
『いやんっ!』
 という音声を最後に、それは止まる。

 瞼を開け見ると、枕元に、化粧の濃い、カクテルドレス姿の全長15センチくらいのおじさんが倒れていた。
 ゆき姉ちゃんの前の彼氏がくれた、趣味の悪い目覚まし時計だ。

 いいかげん捨てなさい、と姉ちゃんには言われるけれど、この気持ち悪さのおかげでよく起きれるので、未だに使っている。
 でも、剃り残しの口ひげにあごひげ、ドレスの下からはみ出たすね毛ぼーぼーの足、胸元からのぞくもじゃもじゃの胸毛……ひととおり確認すると、確かにちょっと悲しい容姿しているのは否定できない。
 しかし、毛が多いな。 
 わたしは目覚まし時計を立て直すと、ベッドの上で体を起こした。
 
 夢の余韻がまだ頭の上にふよふよ浮かんでいるかのような浮遊感がある。随分懐かしいものを見てしまった。

 あの少年のまたなー、の後に「また」はすぐ来た。
 翌日、我が家の戸を叩き、引越しのご挨拶に来たからだ。
 そのときには、お父さんもお兄さんも連れ立って。

「おれ、ヨコボリコータローって言うんだ。よろしくなー!」