「どうしたの?」
 と少年に尋ねられ、
「お姉ちゃんとはぐれちゃった」
 とわたしは答える。

「あら、それは大変」
 少年のお母さんはそう言ってから、
「それじゃあ、一緒に捜してあげようか。ね?」
 少年に笑いかける。

 少年は元気にうなずくと、
「はい」
 とわたしの前に手を差し出してくる。

 わたしはわけも分からずその手と少年の顔とを交互に見る。
 わたしのそんな様子を見て、少年のお母さんは言う。
「またはぐれちゃうと困るでしょう?みんなで手を繋いで行こう」
 そして、柔らかく笑う。

 その優しい笑顔につられ、わたしは自然と少年の手を取った。少年はにっこり笑い、ぎゅっと手を握ってみせる。
 応えた方がいいのかな、と思ってわたしもぎゅっとする。
 すると、少年はくすくすっと笑った。

 少年は人の波に押され、繋いだ手が離れそうになったときも、
「悪の手先の襲撃だー、はなれると悪に染まるぞ!はなれるなあー」
 と声をあげながら、ぎゅっとわたしの手を引っ張って遊ぶ。
 変なの、と思いながらも、少年が始終、あまりにも楽しそうにしているので、わたしも何だか楽しくなる。