指定されていた中庭の東屋に行くと、プロレスラーのマスクを着けた男子生徒がいた。
 ああ、パターンAだ。

 彼は、よく果たし状をくれるメンツの一人で、毎回マスクで変装してくる。
 けれど、声からして同じクラスの松代君だ。

 わたしが近づいていくと、こちらに気づいたようで問答無用で飛び掛ってくる。
「あ、ちょ、ちょっと松代君!」
 思わず脇に退いたものの、体勢の立て直しが出来ないまま、次の攻撃が飛んでくる。

 慌てて後ろに飛びのいたら、踵が木の幹に当たってしまった。
 追いつめられちゃった……。

 その間にも右手の拳を閉じたり開いたりしながら、松代君が追いつめてくる。
「悪いな本田。ユーリが、穂波を倒せないなら、本田でも良いと譲歩してくれたのだ」

 松代君は戸田さんに付き合ってくれとせがんでいて、毎回条件を出されては条件をクリアできずに断られているらしい。
「わたしを倒すなんてものすごーく簡単だと思うけど……」
 巻き添えを食らって痛い思いをするのは嫌だ。

「た、助けてぇ!殺されるー!」
 これがわたしの役目。
 とにかく毎日叫んで助けを呼ぶ、これに尽きる。
 何て平凡な毎日だろう。

「いや、全然平凡じゃねぇだろ……!」
 誰かがわたしのモノローグに突っ込みを入れてきたかと思えば――――。