魔法8日目(先勝)


 ――――じぃじぃじぃ。
 夏休みももう中盤の、8月。
 ただ今補習真っ最中の教室に、蝉の声が響く。

 命短しとせっせと鳴くのは結構だけど、数学の方程式とにらめっこの最中の面々にはイライラのもと以外の何物でもないようで、
「あーあーあー!ちっとだけ静かにしてくれよ!」
 その中でも一番辛抱ってものに縁遠そうな、横堀君が真っ先に根をあげた。

 窓枠に両手でしがみついて、檻に入れられたサルのようにガタガタ揺らし、
「あー静かにしてくれぇー!」
 校庭に向かってシャウトする。

 とはいっても、校舎をはさんで、校庭と逆側の中庭の木々でないている蝉たちには、届くわけもない。
 補修中の面々は突っ込むのも面倒くさそうに胡乱な目で横堀君を見て、それからわたしの方を見る。

 え?わたし?

「クラス委員だから動けって言いたいみたいだね」
 横のまほりがそう口にする。まほりは、幼稚園に通っていたときの癖が抜けないのか、幼稚園の帽子をかぶったままだ。
 本当は年長さんの年齢なのに、この春からなぜか高校に通うようになったらしい。
 なぜか、で普通高校に通うことなんかにはならないと思うけれど、本人がそう言うのだから取り付く島がない。

「いつもは、カズシが動いてくれるんだけどな……」
 同じくクラス委員でわたしとは幼なじみの穂波和史が横堀君と親しいこともあって、横堀君の突拍子もない行動のストッパーになってくれている。

 のだけれど……あいにく和史は補習とは無縁なのでここにはいない。
 補習には無縁だけれどその他に問題があるということは、まあ今は置いていくとして……。
 さて、どうしよう?