それから、ぱからぱからとコンクリートをたたく音がして、
「ああ、ここに居た。探したよ本田さん」
 栗毛の馬がやって来た。背中には薄汚れたネズミを乗せており、首には途中で千切れたリードが巻きついている。

「まさか、この馬も、誰か知ってる人なの?」
 わたしがそう口にすると、馬はこちらに視線を向けてきて、パタパタと耳を動かす。

「変だな、横堀が横堀っぽくない……」
「どこかフェミニンな匂いがするな」
 その背中の上にのっていたネズミまでもそう言ってくる。

「うわっ、何だよこのきたねーネズミ!」
 幸太郎はそう言って、ネズミを2本指でひょいと摘む。
「やめるのだ、ファム・ファタール!」
 ちちちっという鳴き声をあげながら、ネズミは必死の抵抗を見せる。

 ファム・ファタール、という呼び方に心当たりがありすぎて、その薄汚れたネズミの正体が分かった。
「コータロー、やめなよ!そのネズミは松代君だよ!」
「えっ、マジかよ。こんなきたねーネズミが?」

 納得がいかないという表情のまま、幸太郎は馬の背中の上にネズミを戻す。

「ファム・ファタール、いつの間に言葉づかいが悪くなったのだ……?」
「イッセイ、その子、見た目は本田さんだけど……中身は横堀みたいだ」
 松代君のことをイッセイっていうからには、この馬は穂波君かな。

「本田の身体に横堀が……?何ていうことだ……」
「そして、横堀の身体には本田さんが入っている。違うかな椎名さん?」

「その通りー。ミサとコータロー君じゃ、オーラが違うよね」
 まほりはそう言いながらわたしの肩へと戻ってくる。