ただ、わたしは過保護という言葉に、違和感を覚えてしまう。

 だからつい、
「過保護って過剰に保護するってことだよね?わたし、コータローに保護されている覚えないよ?」
 思ったことをそのまま口にすると、穂波君は苦笑いをする。

「横堀が過保護じゃなければ、俺はもっと楽なんだけどね……」
「……」

 幸太郎もまた、少しだけ考えたようにしてから、
「けど、ミサキがいいなら、そういう作戦もいいのかもな」
 そう言った。穂波君が面食らったような顔をする。

 まほりは何か言いたそうな目で幸太郎を見た。
 そして、
「コータロー君、頬っぺたつねってもいい?」
 突拍子もないことを言い出す。
 そして、身を乗り出すと、廊下を挟んで向こう側の幸太郎の頬を引っぱった。

「いでででで!」
「ま、まほり、気でも触れた?」
「楽な方に流れようとしてるから、ちょっとムカッときた、かな?」

「何それ。今、コータロー、全然楽じゃなさそうな顔してるけど……」
 ものすごく頬がのびて、顔の形が変形してますけど。
「今勇気を出すか、今楽をして後悔するか……みたいな話。だよねコータロー君?」
「……」

「よく分からないけど……」
 一連のやりとりそのものがよく分からなかった。

 一方で、まほりから頬っぺたを解放された幸太郎は、らしくもなく、静かになってしまう。
 そのまま話し合いもなくなって、不穏な沈黙が四人の間を満たしていた。

 変だ、と私は思う。みんなはみんなして歯切れが悪い。肝心なことには触れないように、ぼかしてぼかして話をしている感じがするのだ。

 そして、そんな異様な空気のまま、バスは龍尾湖沿いの合宿所に着いてしまったのだった。

 降り際、
「ミサキ、後で話がある」と幸太郎は言った。
「うん?分かった」

 そのまま部活ごとに集合がかけられて、幸太郎とまほりとは別れた。
 変だな?という違和感を頭に残したまま。