「もしかしなくてもヤバイ感じか?」
「横堀が言うと緊張感が薄れるな」
「カズシお前な……。けど、あんなのったりした足取りで捕まえられるわけねーじゃん」

 幸太郎が言ったのも束の間、捕まえる!とめいめいが大きな声で叫んで、こちらへと突進してきた。
「うわ、コータロー君の発言に怒ったよ!」
「うっそマジで!?」
「本田さん、そっちの階段から!」

 舞台から降りる唯一の階段を穂波君が指差すけれど、すでにそこにはあやめも分からないような表情を浮かべた男性がいた。
 ぬうっと緩慢な動きで手を伸ばしてくる。

「ミサー、しゃがんでー」
 まほりののんびりとした調子の声がして、わたしが言われるままにしゃがむと、剛速球ならぬ、剛速ペン(?)が空気をさいて、男性の腹部に激突した。

 ぐぅぬうと鈍い声を出しながら男性はしゃがみこむ。
「ミサ、今のうちー」
 行って行って、と手でしめしてくる。

「ありがとう、まほり」
 言われるままにわたしは袴の裾をあげつつ、階段を降り、人気のない方向目指して駆け出した。