それはほんの数十分前のことだ。
 岩に食べられたわたしが放り出されたのは、ヒノキの舞台の上だった。
 そう、龍に誘拐される前にいたあの場所。

 どん、と豪快に板の上に放り出され、その痛みにお尻をさすっていると、
「ミサキ!」
 幸太郎の声を筆頭にして、知った声がわたしの名前を読んだ。

 見ると、いつものメンバーがそこにいて、驚きと心配が半々のような顔をしてこちらを見ていた。
「良かった。呼び出しの魔方陣、効いたね」
 まほりがそう言って、手に持ったマジックにキャップをはめた。

「魔方陣……?」
 何のことだろう、と辺りを見回すと、わたしの座っている舞台の板の上に、太いマジックで怪しげな魔方陣がかかれていた。
 この魔方陣が、わたしをここに呼び出したってことなのかな?

 そんなのは信じがたい現象なのに、龍が現れた今となっては、何もかもが信じるしかない気がしてくる。
 何にしても、龍からはひとまず逃げられたと思い、安堵した。

「姐御が戻ってきたって、俺は親父や伯父貴達に言ってきます。護摩焚いたり、警察に連絡行ったり慌ててたんで」
 火恩寺君がそう言って、その場を去っていった。
 それを見送ると、幸太郎が神妙な顔をしながら、口を開く。

「なあ、大丈夫だったか?タツヒコから聞いたけど、あの龍、やばい奴なんだろ?」
 その龍が、焔の縁伝説の龍そのものだとしたら、何人もの女の子を花嫁として迎えていたわけだから、確かにやばいかもしれない。
 それにあの、にやりとした笑いも、確かにやばい奴っぽいのは確かだ。