「分かった、行こう。その代わり俺は小春の護衛に当たる」
 この言葉に幸太郎が複雑な表情を作り、
「勝手にすればいいだろ」
 そう言い捨て、さっさと部屋から出て行った。

 幸太郎と穂波君の折り合いが悪いような気がする。
 ただ、こういうシーンには覚えがあった。

 遠い記憶の中に――――。
 焔、爽、小百合に墨心、乾、そして小春、そんな名前がとても身近だった頃。

 そんなことを考えていたら、穂波君の端正な顔がぐんにゃりと歪み、わたしをとりまく世界もまたどろどろと溶けていった。
 そして気がつくと、光に囲まれただただ落ちてゆく変な空間に戻っていた。

 さっきまでの光景にわたしは覚えがあった。紗の向こう側に移りこむ影のようにおぼろげな記憶だけれど。
 多分それは、誰でも持っているような子どもの頃のささやかな記憶だ。

 龍の余計なお世話はこれだけでは終わらないようで、さっきのように足元から光がやって来たかと思うと、わたしは再び、別の世界に投げ出された――――。