額に何か冷たいものが当たる感覚で目を覚ました。
 ほの暗いその空間で、ゆっくりと身体を起こす。

 こうこうと光る青い岩肌が頭上に見え、夢の続きを見ているような気分になる。
 ふと額に触れると少しだけ湿っていた。
 岩に染みた水が頭上の岩肌をつたい雫となって降ってきているようだった。
 ひんやりと湿った空気のせいで、ぼんやりとしていた頭が徐々に目覚めていく。

 何がどうなったんだろう、変な靄のせいで気を失って、それで……。
 ここはどこだろう、洞窟のようなところみたいだけれど……。

『目が覚めたようだな』
 お腹に響く低い声がし、見るとそこには小ぶりの龍がいた。
 わたしのいるところより一段高くなり岩の台座のようになっている場所で、とぐろを巻いている。

 ああ、やっぱり夢じゃなかったんだ、と壮絶な落胆に襲われる。
『目覚めが悪いのか、娘よ。このようにして、お前を驚かせないように身をやつしたのだが……』
 確かに、さっき見たときより小ぶりになっている。

 だとしても怖いのには違いないし、現実離れしたことが起こっているには違いない。
 龍は台座から降り、するすると地面を這いこちらにやって来る。
「ひぃっ……」

 思わず後ずさると、
『そのように恐れるな、すぐにお前と夫婦になろうとは考えてはおらぬよ』
 にわかに柔和な声色になって、龍は言う。

「い、いや!すぐじゃなくても夫婦になんてなりたくないよ……!」
『ははは、はっきりとものを言うな』
「笑いごとじゃない……まったくもって笑えない」

『お前の周りに赤、青、黄、黒の焔が見えるのだ。そのような焔を見てしまうのは、焔生の龍である我が身を恨めしく思うところだが』
「どういうこと?」
『心当たりがないか』

「焔なんて言われても……」
『縁の焔だよ。赤と青が殊に強く燃えている。そんなものを目の前にして、我はお前を花嫁にすることは出来ぬよ』
「縁の焔……」

『ああ。しかし、お前の焔はまだくすぶったままだ。人の縁を司る身としては捨て置けなくてな』
「何か、嫌な展開の予感がする……」
 大きなお世話の予感、そしてそれによる余計な被害の予感だ。