「ミサキ!?」
「本田さん!?」
 と知った声もその中に混じっていた。

 わたし自身はといえば、宙ぶらりんな状態で、みんなのつむじが良く見えるなあ、なんて混乱しすぎて逆に冷静でそんなことを思っていた。
「ち、この色ボケ龍が……っ」
 火恩寺君が龍の身体へと飛び移ろうとするが、一方でその尻尾が彼を払いのけようと動き、中々近寄れない。

「一体どうなっている!?」
「これって現実なのかな……」
「うわあ、これ狩ったら、どんな素材採れんのかな!」
「龍って鱗を剥いで、食べれるのかな!?中身はウナギ?」
 どたどたと見知った顔が舞台へ上がって来るのが眼下に見えた。

 後二人の発言が非常に聞き捨てならなかった。
「ちょっとコータローにまほり、人が大変だっていうのに何そのノリ!」
「おおっ、高所からの突っ込みか、やるなミサキ!」
「ミサーかっこいいー!」

 二人してぶんぶん手を振ってくる。アトラクションに乗っている友達に手を振るかのようなノリで。
 つられるようにして周囲の人たちも手を振ってくる。
 わたし、この二人と幼なじみや友達でいいのだろうか……。

 目の前に出来事に呆然としている穂波君や松代君の反応が、逆にありがたいくらいだ。
『あの男の末裔よ、貰ってゆくぞ』
 どこからか靄があらわれ、龍の体を包み込む。

「え、何これ……!」
「姐御、吸い込んじゃいけません、これは……」
 そう口元を押さえた火恩寺君が言い終わる間もなく靄は這い上がってきて、わたしは思いがけず吸い込んでしまう。
 周囲を満たしていたどよめきが潮騒のように優しい耳ざわりになってゆき、わたしは気を失ったのだった。