広場の中央にひのきで作られた舞台の端にひかえながら、わたしは爆発しそうな心臓を抱えていた。
 もう夕方と言っていい時刻だけれど、まだ夕闇には程遠く、周りの様子が良く見えるのも、ドキドキの原因でもあった。
 舞台は四方に薪に火がつけられ、その周囲をぐるりと観客が囲む形で座っている。

 お囃子が始まり、少ししてから対面にひかえている係りの女性が目配せし、それを合図に、わたしは手に持った神楽鈴を鳴らしながら、舞台に上がってゆく。

 被り物のせいで視界が狭まるため、ゆっくりと確実に歩を進めていかなければならない。
 中央まで行ったら次は……。

『いよいよこのときが来たか、待ちわびたぞ……』
 脳に重低音が響く。まるで太鼓の音のように、びりびりと響く音だ。
 けれど、わたしは風の唸り声だろう、と決め付けて、東から北にかけての四方へ礼をしていく。

『長き眠りから、我目覚めん』
 物々しい声がして、そばに座っていた鼓担当の男性が、ひぃっと小さく声を漏らす。
 え?

 今一礼したばかりの西側で座っている人たちの何人かも、目を見開いて舞台の上方を見つめている。
ただならぬ雰囲気に、何?と人々の視線の方向を振り仰ぐと、そこには――――

 龍の大きな頭がフワフワと浮かんでいた。
 ぞわぞわっと背中に冷たいものがかけめぐり、ごくり、と喉がなる。

 こんな演出、説明してもらってないんですけど。となるべく冷静に思考を働かせる。

 鼓の男性と横笛の男性とが、こしょこしょとわたしが今思っていたことを囁きあうのが聞こえた。